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名古屋高等裁判所 昭和56年(ネ)604号 判決

控訴人

株式会社新栄

右代表者

江見博英

右訴訟代理人

川島和男

被控訴人

株式会社後藤無線商会

右代表者

後藤一雄

右訴訟代理人

六川詔勝

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五五年九月七日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一原判決事実摘示の請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二〈証拠〉によれば、本件手形の金額欄には漢数字で「壱百円」と記載され、その右上段に算用数字で「¥1,000,000―」と記載され、同手形には一〇〇円の収入印紙が貼付されていることが明らかである。

このように手形金額が数字をもつて重複して記載され、その金額に差異のある場合(数字は数を表わす文字であるから、漢数字も数字であり、本件手形は金額を文字及び数字をもつて記載した場合に該当しない。)、手形法六条二項は、金額が不確定のため手形が無効となることを防ぐ目的で、最小金額を手形金額とする旨を規定している。しかし、手形の外観(印紙税法二条による貼用印紙額を含む。)自体から数字による重複記載のいずれか一方が他方の誤記であることが明らかである場合には、金額不確定のため手形が無効となることはあり得ないので、右手形法六条二項の規定の適用はないと解するのが相当である。

本件手形に漢数字で記載された金額一〇〇円は、手形金額として存在しえないわけではないが、本件手形の振出日である昭和五五年四月二八日当時の貨幣価値からして右金額の手形が振出されることは経験則上ほとんどありえないと推断されるばかりでなく、昭和五六年法律一〇号による改正前の印紙税法二条によると、右振出日当時手形金額が一〇万円未満の手形は非課税であり、一〇〇万円以下のものの印紙税額は一〇〇円であつたから、振出人が金額一〇〇円の手形に一〇〇円の収入印紙を貼付して振出すことは一般常識上ありえないというべきである。そうだとすると本件手形の漢数字による金額の記載には「壱百」の字と「円」の字の間に「万」の字が脱漏していること、すなわち、漢数字によつて記載された金額は算用数字によつて記載された金額の誤記であることが明らかであるといわなければならない。

以上のとおりであるから、本件手形には手形法六条二項の規定の適用はなく、算用数字で記載した金額一〇〇万円を本件手形金額とすべきものと解するのが相当である。これと異なる被控訴人の主張は採用できない(銀行取引においても、金額欄記載の金額が欄外記載の金額の誤記であることが手形の外観上明らかである場合にまで金額欄記載の金額を手形金額とすることに合理性があるものとは考えられず、またそのような慣行があることを認めるに足りる証拠はない。)。

三そうすると、被控訴人は控訴人に対し、本件手形金一〇〇万円及びこれに対する本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年九月七日から支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があることが明らかであるから、控訴人の本訴請求は全部正当としてこれを認容すべきである。

よつて、右と一部結論の異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 佐藤壽一 玉田勝也)

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